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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)31号 判決

東京都三鷹市井口三五七番地

原告

榎本武男

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長

林信一

右指定代理人

小田泰機

佐々木正男

小笠原英之

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四九年一〇月一六日付で原告に対してした原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、訴外武蔵野税務署長が原告に対してした昭和四七年分の所得税の更正及び重加算税賦課決定について、被告に対し審査請求したところ、被告は昭和四九年一〇月一六日付で原告に対し、右審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

2  しかしながら、本件裁決は事実を誤認して原告の所得を過大に認定した違法があるから、その取消しを求める。

3  本件訴えの提起が本件裁決の日から一年を徒過した後であることについては、次のような正当理由がある。すなわち、本件裁決に係る裁決書謄本は、昭和四九年一〇月末頃原告に送達されたが、原告は、本件裁決の基礎とされた証拠が措信できないことを立証するに日時を要したため、出訴期間内に本訴を提起することができなかったものである。右の事情は、行政事件訴訟法一四条三項但書の「正当な理由があるとき」に該当する。

二  被告の本案前の主張

原告は、本件裁決により維持された審査請求に係る更正等の取消しを求めて昭和五〇年一月一六日に訴えを提起しているから、遅くとも、同日までには、本件裁決に係る裁決書の謄本が原告に送達され、原告において本件裁決のあったことを知ったというべきである。しかるに、本件訴えは、昭和五七年三月二三日に提起されているから、同法一四条一項、四項の出訴期間を徒過した不適法な訴えである。

第三証拠

一  原告

乙第一号証の原本の存在及び成立を認める。

二  被告

乙第一号証を提出。

理由

一  本件訴えの適否について検討する。

本件裁決に係る裁決書の謄本が昭和四九年一〇月末頃原告に送達されたことは原告の自認するところであるから、原告はその頃本件裁決があったことを知ったものというべきである。そして、本件訴えが昭和五七年三月二三日に提起されたことは本件記録上明らかであるから、本件訴えは、行政事件訴訟法一四条一項に定める出訴期間を徒過して提起されたものというべきである。

原告は本件訴えの提起が本件裁決の日から一年を徒過した後であることについて同条三項但書の「正当な理由」があると主張する。しかしながら、同項は、同条一項によればなお出訴期間を徒過していない場合であっても、処分又は裁決の日から一年を徒過したときは、正当な理由がある場合を除き、もはや出訴を許さないとする趣旨であるところ、前記のとおり原告は昭和四九年一〇月末頃本件裁決があったことを知り、同項の出訴期間を徒過した後本件訴えを提起したというのであるから、本件においては同項が適用され、同条三項が適用される余地はないと解すべきである。なお、原告の右主張が原告の責めに帰すべからざる事由によって出訴期間を遵守することができない旨の主張(同条二項、同条七条、民事訴訟法一五九条参照)を含むとしても、原告は単に証拠収集に日時を要した旨主張するのみであって、かかる事由は出訴期間を徒過したことについて原告の責めに帰すべからざる事由にはあたらないから、いずれにしても原告の右主張は理由がない。したがって、本件訴えは行政事件訴訟法一四条一項の出訴期間を徒過した不適法なものといわざるをえない。

二  よって、本件訴えは不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 満田明彦 裁判官 揖斐潔)

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